1.四日市公害と人権  (学習指導案) 
 
T.題材 「四日市公害と人権」
 
U.目標
・公害によって、健康や人間らしく生きる権利を奪われてきた人々(患者)とその家族らの悲しみや苦しみを知る。
・公害の原因をつくりながらなかなか非を認めようとしなかった企業や、その責任を追及しなかった市や県に対する怒りの気持ちを持ち、人権を守るために団結して闘った人々の姿を知る。
・公害病患者に対して、理解や協力をしようとせずに白い目で見ていた周囲の人々の差別性に気づき、日常生活における自分の言動や行動の中にある差別性を振り返ることができる。
 
V.指導上の考察
 
(1)児童について
 − 略 −
 
(2)題材について
 四日市で、以前公害問題が大きくクローズアップされ、訴訟にまで持ち込まれたこと、そして今も公害病で苦しむ人々がいることを子どもたちに知らせたいと考え、この題材を取り上げた。
 参考文献や資料については、次の通りである。
 
 @「四日市公害記録写真集」 四日市公害記録写真集編集委員会
 A「公害トマレ」37〜48 四日市公害と戦う市民兵の会 1974/4〜1975/3
 B「くさい魚とぜんそくの証文」 澤井余士郎編 −公害四日市の記録文集−
 Cフィルム「公害」(視聴覚センター)
 
 ほかにも訴訟の部分を取り上げた本等があったが、子どもたちにわかりやすいという点から考えて、上記3冊の中から抜粋した資料を作成した。
 「公害トマレ」37〜48は、訴訟支援・公害発生源撤去を目標に作られたミニコミ誌である。患者を取材して聞き取った文や写真・学生や労働者からの投稿を掲載している。1971年(昭和46年)にテスト版を発行している。
 「くさい魚とぜんそくの証文」は、過ちを再びくり返さないために、事実を確認し、記録していくことを目的に作られた記録文集で、『くさい魚と漁民』・『四日市公害ぜんそく』・『公害拡大とぜんそく訴訟』の三部構成になっている。
 第一部『くさい魚と漁民』では、コンビナートが流した廃液のために、毎日異臭のする魚しかとれず、売り物にならなくて追いつめられた漁民たちが、市長や知事にその解決を問いただしたり、直接会社にいって交渉したりした内容が、漁民の話し言葉で綴られている。
 第二部『四日市公害ぜんそく』では、公害病で苦しむ患者やその家族の悲しみ、また企業や市に対する憤り、患者に対する周囲の人々の目、住民運動の経緯が聞き取りの文や作文という形でのせられている。
 第三部『公害拡大とぜんそく訴訟』では、訴訟に至るまでのいきさつや訴訟の内容が書かれている。
 
 @より、公害の実体や患者の苦しみ・勝訴したときの様子を目で見てとらえることができるだろう。また、A・Bの中の文より患者や家族の苦しみや葛藤を感じることができると思われるが、特に「公害病といわれるとかわいそうなので学校には届けていない」「(娘の縁談に響くのを心配して)ぜんそくという言葉を使わないでと家族に頼む」から周囲の目を気にして病名を隠し、差別をおそれていた患者や家族のつらさが見えてくる。そして、患者の人たちがなかなか立ち上がれなかった背景には、周囲の人たちが署名運動などに協力しなかったり、「公害はうつる」とか「公害病の子と遊んだらあかん」とか、病気の原因も分からないのに、患者や家族に対し、冷たい態度をとったことも関わっていると考えられる。
 これらのことから、本当は団結し協力しあって企業や市・県に立ち向かっていかなければならないはずの人たちが差別という大きな壁にぶつかり傷ついていたことも見えてくる。
 また、当時の市長は、四日市に石油化学コンビナートを誘致し「工業を発展させるためには多少の犠牲はやむを得ない。」と発言し、企業も患者らの訴えに耳をかさない態度をとっていたことから、公害発生より長期間にわたって多くの犠牲者を出し、勝訴に至るまでに時間を要したと考えられる。
 他の公害訴訟と同様、裁判は勝訴であったが、同じ患者であっても認定を受けられず、取り残されている人もいる。そして、公害終止宣言がなされた今もなお公害病とたたかい、苦しんでいる人々がいる。
 
◇子どもと題材の接点
 これまでの題材は、学校や家庭といった子どもたちの身近な場面での出来事をとらえたものがほとんどであった。
 今回「公害と人権」を社会科の学習とつなげて取り扱い、四日市市における公害について学習を深めていくわけであるが、子どもたちとっては、普段考えてもみなかったような難しい内容であると思われる。しかし、公害とはどういうものなのか・なぜ起こるのか・どこで起こっているのか等、興味を持って質問したり、調べたりしている子もいる。
 公害病患者やその家族たちが周囲の目をおそれて病気であることを隠したり、立ち上がるまでには時間がかかったりしたことは、間違いをおそれて発言できない子の気持ちにつながり、本当に言わなければならない場面に直面しても言おうとしないことに当てはまる。「四日市公害」を学習することにより、自分が直接被害を受けるのをおそれて相手を差別してしまう弱さは誰の心の中にもあること、そして団結することの大切さに気づいてほしいと思い、この題材を取り上げた。
 
(3)指導について −予想と願い−
 「公害」・「ぜんそく」という言葉の意味を理解していないと思われる子どももいる。「公害」に興味関心があって、社会科の教科書に載っている写真や文をみて質問をしてくる子もいる。また、家の人と車で出かけ、「塩浜の方を通ったときにすごい臭いがして、窓を閉めてもまだ臭いがしていた。」と経験を話す子もいる。しかし、四日市市あるいはその他の地域で四日市公害に苦しむ人がいたり、四日市公害が大きな問題に発展して裁判になったりしたことを詳しく知っている子はいないと思われる。
 そこで、社会科の学習とつなげて四日市公害についての調べ学習をさせたり、こちらから資料を配付し説明を加えたりすることによって、四日市公害についての知識を深めさせたい。
 公害に苦しんでいる患者や家族の写真やフィルムを見たり、彼らの書いた作文を読んだりすることにより、子どもたちは同情や「自分は公害のない町に住んで良かった。」という気持ちを持つであろう。また、そのような公害の原因が、企業や企業を誘致した市・県、ひいてはそれを認めた国にあることを知った子どもたちは、はげしい憤りを感じるであろう。しかし、これだけに終わってほしくない。
 患者や家族らを中心とした住民たちが立ち上がり、企業や市・県・国に対して抗議・デモ・署名などの運動を起こしたことを知って、一人ひとりが人間らしく生きていくことの大切さについて考えてほしいし、生きていくための権利が奪われたときには団結して行動を起こすことが大切なことも学んでほしい。そして、住民運動がなかなか成果として現れてこなかった背景には、企業や、市・県・国側の無責任さももちろんあるが、住民間にあった患者に対する差別や、協力体制の無さ、自己中心的な考え方があったことに気づいてほしい。
 さらに、自分たちの日常生活を振り返り、友達を差別していることはないか、協力しあわなければならないときに自分勝手な行動・言動をとってないか、クラスの目標「友達を大切にする」と掲げているが、少人数意見を無視してその子たちの気持ちを大事にしていないことはないか等を省みるきっかけにしてほしい。
 そして、担任である私自身も同様にクラスの子どもたちに接する態度や姿勢について考え、反省していきたい。
 
W.指導計画(全6時間扱い、社会科「公害と人権」と平行して)
 
 @四日市公害について知り、患者やその家族についての思いを出し合う。
  (2時間・・・フィルム視聴を含む)
 A四日市公害の原因である企業に対する思いを出し合う。(1時間)
 B住民運動や市・県・国の対応、周囲の人々の行動・言動について自分の考えを持ち、  互いの意見を交流し合う。(2時間・・・本時2/2)
 C自分たちの日常生活において、差別はないか振り返って考える。(1時間)
X.本時の指導
 (1)本時の目標
 ○周囲の人々が、病気をおそれて公害患者を避け、差別してしまったことを
  その人の立場になって考え、自分も含む人間の弱さに気づく。
 ○弱い立場の者同士が、団結して立ち向かっていくことの大切さを知る。
 ※:「くさい魚とぜんそくの証文」より抜粋
 (2)指導過程(45分)
学習活動 指導上の留意点
@周囲の人々が病気をおそれて、患者や家族に差別的な態度をとったことを学習プリントを元に考える。








A自分の周囲の人の立場になって差別を考える。

(発問1) 自分の友達が公害病患者になったら、あなたは   今まで通りそのこと遊びますか。



B自分の考えを書き話し合う。








C差別が、公害反対の運動の足かせの一つになっていたことを考える。


(発問2) 公害反対の運動が高まってこなかった理由は、 何だったのでしょうか。










D本時の感想を書く

E次時の予告を聞く

 
<周囲の人々>
・「公害病のこと遊んだらあかん。うつるよって。」

・署名に協力してくれない


 
<患者・家族>
公害病といわれるとかわいそうなので、学校には届けていない。
・学校でいじめられないか
心配
・ぜんそくということを知られたくない。

☆患者や家族が病気を隠そうとする心の中には、周囲の人たちからの差別をおそれる気持ちがあったことに気づかせたい。







☆プリントに考えを書かせる。
<考えの予想>
・友達だから気にせず遊ぶ。
・家の人に「遊ぶな」と言われたら迷う。
・だんだん遊ばなくなるかもしれない。
・うつるとこわいから、遊ばない。

☆人の心の中には、差別する側に回ってしまう弱さがあることに気づかせたい。






・患者・家族が差別をおそれて、病気を隠していたから
・周囲の人たちの中に、他人事のように考えている人がいたから。
・会社に勤めている人たちは、仕事がなくならないかと心配して協力しなかったから。

☆弱い立場の者同士が団結しないと運動にならず、公害もなくなっていかないことに気づかせたい。


☆クラスの中に差別はないかを考えることを言う。